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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(あ)2117号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人笈川義雄の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点の実質は、すべて事実誤認または単なる法令違反の主張であり、判例違反をいう点は、引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、その余の論旨は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない(正当な権限がないのに指定商品の包装に登録商標を付したものを販売する目的で所持する場合、その中身が商標権者自身の製品でしかも新品であることは商標法三七条二号、七八条の罪の成立になんら影響を及ぼさないものであり、次に、特段の美観要素がなく、もつぱら、運搬用商品保護用であるとしても、商品を収容している容器としての段ボール箱は同法三七条二号にいう「商品の包装」にあたり、また、同条号の行為は必ずしも業としてなされることを必要としないものというべきである。したがつて、これと同趣旨の原判断は、いずれも正当である。)。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(関根小郷 下村三郎 松本正雄 天野武一)

弁護人笈川義雄の上告趣意

第一点 控訴審判決第七点は

1 本来商標権の効力は類似商標又は類似商品に拡大されない。しかし、それでは、類似商標、類似商品えの使用を他人に許すことになり商標登録を通じて商品の取引秩序を確保しようとする商標保護の制度目的にも反することになるから、特に商標法第三七条に商標権の侵害行為を擬制する規定を設けた。従つて右三七条に所謂みなす侵害行為のうちには商標権者自身の商品を表彰する場合は含まれない。と解すべき処、本件被告人らの行為は、『当該商標権者自身の商品を表彰するためにしたもの』だから、右法条の侵害行為に該当しないのであり、あたかも、登録商標を指定商品以外の他類の商品について使用してもさしつかえない。と同様許された、構成要件に該当しないか、又は違法性のない行為である。との主張に対し、単に、

2 商標法二五条は商標権者が指定商品について登録商標の使用をする権利を専用する旨規定しているから商標権者からその使用権の設定を受けていない者が登録商標を指定商品に使用することが商標権の侵害になることは疑いなく、『中身が商標権者の製品で、しかも、新品である』からと云つて侵害の成否に影響はないものであるから商標法七八条の罪の成立はいう迄もない。としている。

3 然し乍ら、

(イ) 中身が商標権者の製品。権利者自身の商品であるならば。どうして。商標登録を通じて商品の取引秩序を確保しようとする商標保護の制度目的に反しようか。

(ロ) 商標の商品の同一性を表示する機能(商品識別の機能)。この機能を前提として商品の出所の混同を防止(出所表示の機能)、且商品の品質を需要者取引者のために保証する機能(品質保証機能)がある。

どうして、商標権のもつ、これらの機能を、そこなつた、と云えようか。

4 もしも、商標権者の本来の流通過程における商標を付した商品を置く意思に適合しないから、という事などを判決が根拠としたらば、「商標権者の商標を付した商品を本来でない流通に流れた時、即ち、商標も商品も真な正であつても本来の流通でない時」は商標法違反となるのであつて(四一年十一月二十一日東京高検答弁書第二点参照)商標権の予期しない、商標法の予定しない。効力の無限の拡大となろう。

5 そこで、商標権の効力を商標法の目的制度の限度外迄拡張解釈した原判決の法令違反は判決に影響を及ぼすべく且著しく正義に反し刑そ四一一条に該るか。かような刑罰規定の誤解による受刑は憲法三十一条にも違反する判決といわねばならないのである。

第二点〈略〉

第三点 控訴判決第五点は

(1) 本件段ボール箱が縦22.5センチメートル横20.5センチ高さ二〇センチ厚さ0.5センチで茶色の地はだそのまま露出して美観要素もなく、全く運搬用商品保護用であるから商標法三七条二号の包装には当らない。との主張に対し本件段ボール箱は容器であつて且商標法三七条二号の包装に当る。としている。

(2) 然し乍ら

(イ) 抑々商標法三七条の間接侵害(みなす侵害)の規定は侵害の予備的行為に迄商標権の侵害とみなして法の擬制によつて効力を拡大したものである。したがつて

(ロ) この点から法三条二号に「指定商品であつて、その商品の包装に登録商標を附したもの」とあるのは『当該侵害行為者以外の第三者が他人の商標を指定商品の包装に附したその商品を侵害行為者が譲渡のため所持する場合のみをいう』のであつて、当該行為者自身が、始から自己において指定商品の包装に登録商標を附した当該商品を譲渡のために引続き所持するばあいは、本来的商標権侵害行為を構成するは格別右法条のみなす侵害には含まれない。のであり、

(ハ) 本来みなす侵害は法の擬制による商標権の効力の拡大であるから、厳格、制限的に解すべきで。拡大し、ゆるやかに解したならば、商品を包装するフロシキ、紙袋、カバン(商標が何れも附してある)に類似商品を人れて運搬しても商標権侵害となろう。

(3) 原審の法解釈は一貫して拡張解釈の態度であつて到底許し離い法令適用の誤りであつて著しく正義に反し又は誤つた法令適用により憲法三十一条に違反するわけである。

第四点〜第七点〈略〉

第八点 原判決第四点は、

一、笈川弁護人の、商標法三七条は二条一項(旧法一条一項には営業との語あり)の「業として」即ち営業として、したか、どうか、も二条との関係から要件とされるべきで、酒類等の製造販売業者が壜詰め酒類等を販売した後に、再使用の目的をもつて容器である空壜を回収する行為は商標法上の営業に当らない。四〇年四月二十二日東京民一三判行裁例集一六巻五号七八七頁タイムズ一七五号二〇八頁のように。本件はリンクとして用いたので、回収再回収、再々回収して全く保護運搬用であつたので、決して不特定多数の、この事情を知らない者に商標的機能を果させた――業とした――ものでなくドラゴン会議出席の業者に事情説明熟知の上で、この出席者間にだけに限つて使用されているのである。だから業としてなされていないから構成要件を欠くとの主張をした処

二、原判決は、二条三項一号及び三七条二号の各行為は業としてする事を必要としないこと。又利をうる目的で反覆しているから業としてなした。ものだ。という。

三、然しながら、業として、即ち営業として為した場合のみ問題とすべきは、あまりに当然だから旧法一条一項に当るような営業の語を削除したのであつて、類を異にし、商品を異にした時は商標権は何の効力もないように、例え同類同商品でも試みにどんな具合か戯れに用いても尚適用あり、との結論に達し到底納得出来ない。

即ち二条ですら業とした時でなければ侵害でないのだからその効力拡大規定たる三七条の場合は勿論業とした場合だけ侵害となるのは云う迄もない。

又まして、目的罪でもないのに利をうる目的を規準にして業とした、かどうか考える事はもとより前記判例からも根拠とはならない。

四、本件は第六点詳論のように風俗営業の刑では軽いからというので、本来風俗営業違反で取締り捜査し乍ら――本来の筋はそれで処罰を求めようとし乍ら立法の予定していない刑を科さんとして商標法適用を求める、大上段に云えば司法により立法(の予定乃至趣旨とした処)を犯そうとするものであり、ドラゴン会議出席者間(熟知者間)のみに用いたダンボール箱が、どうして業とした事になろう。

ここ数日来の新聞、ジャーナリズムに報道され全国的な社会問題として取り上げられている(即ち公知の事実として)の問題は、味の素、ハイミーがグルタミン酸を主体にして如何に人体に有害であるか。又味の素ゴマ油が真実はゴマ油が1/3で他は別の油である等と商標権の関連を考えれば本件業としたかどうか。違法性の有無。等にも十分併せ考えられねばならない事情なのである。

五、かくて、原判決は前記判例に違反し且刑訴四一一条に該る判決なのである。〈以下略〉

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